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OGM SHAPES
小川昌男代表/元JPSAプロインタビュー Vol.3
~テイラー・ノックスのびっくりアクションとケリー・スレーターの超絶マニューバー~

(Vol.2の続き)

小っちゃい波から大きい波まで全部乗れるボード、Fat-3

[AO] 普段のお気に入りのサーフボードとか、稲村ガ崎で乗られるときのサーフボードとかってどんなボードか教えていただけますか?

[OGM] 僕がシェイプしているFat-3っていうモデルなんですけども。ちょっとワイデストポイントが前の方にあって、ノーズが若干広くて、テールが細めのボードなんですけど、なんでこれが好きかっていうとね、これ1本で小っちゃい波から大きい波まで全部乗れちゃうんですよ。どの波でも調子が良いんです。

僕はあんまりサーフィンが器用じゃないんでね、この波だからこの板、この波だからこの板っていう風に板を変えるのがあんまり得意じゃなくて。なので、この板は1本で全てカバー出来るのでとても重宝しているんです。そういう板なんですよ。

[AO] ワイデストポイントがちょっと前目なんですよね。

[OGM] ちょっと前が広くて。

[AO] なるほどその分結構、浮力が有って、小さい波でもキャッチしやすいっていうことですね。

Fat-3
(photo by OGM SHAPES)
[OGM] 前の方に乗れば、乗りやすいですし、テールが細いので、大きい波でもターン出来るんです。ワイデストポイントから後ろ側が、大きな波用のミニガンとほぼ同じアウトラインをしていますので、テール付近がかなり細く鋭いピンテールになっているんです。

通常大きな波用のボードのガンやミニガンですと、もっとレングス(ボードの全長)が必要なのですが、このワイデストポイントより後ろ側の形状のおかげで、短いレングスにも関わらず大きな波にマッチし、非常に安定したターン性能を発揮するボードになっています。

ボトムは、基本的にシングルコンケーブで仕上がってます。フルコンケーブっていってノーズからテールまでドーンと入っているものです。それと、Fat-3でも若干小波用にセッティングしたボードは、若干テールを広げています。そうした場合、切り返しを軽くする必要が出て来るんですね。そのために、シングルコンケーブだけじゃなくて、途中からテール寄りがダブルコンケーブに変わっているタイプのものも作ってます。

ただ、これはあくまでもボードの形に合わせてのデザイン変更なので、何がベストかということではなくて、テールを広げるんだったらシングルコンケーブからダブルコンケーブに変わるものがベストになるだろうということで、フルコンケーブと、どっちが優れているかということは一概には言えないと思っています。

Fat-3っていうのは使用用途が凄く広いんですよ。小っちゃな波から大きな波まで全ていけますし、ボードのサイズあるじゃないですか。例えば5’11”で作ったFat-3も有れば、6’2”も有れば、7’  (feet)もあれば、というような。ボードのサイズによっても、性能が変わって来るんですよね。Fat-3のコンセプトって全てのボードサイズにあてはまっちゃうんで、もうどんなサイズでもいけるんだなって感じなんですよね。

そうすると、どのボードサイズのパターンにも当てはめられるということは、逆に言うと、ボトムもボードのサイズに合わせてちょっとだけ調整を加えないと、全てのサイズのボードで調子が良いものは出来なくなってくるんですよ。幅の広めのFat-3は最後にダブルコンケーブに行ってリリースしたりとか、そういうやり方をやっています。その程度の違いです。

テールの幅が広くなってくると、板が早く走るのは良いんですけど、回転性っていうかターンが重くなって行っちゃうのは、あんまり乗り易さにおいて良いことでは無いので。ですので、ダブルコンケーブを組み合わせたり等をすることで、そういった問題を解消したりとかをしています。

レールは通常のミディアムレールです。モデルによって、薄いレールとか厚いレールとか、僕はあんまり決めてないんですよ。やっぱり、使う人の体形によることが多いので。単純に、体重が重いから厚いレールっていうことでもなくて。脚力の関係で、脚力強い人だったら厚いレールでも十分ターンできるということなんですね。

小川昌男氏
(photo by OGM SHAPES)

年間100日以上を20年以上続けているジャッジ

[OGM] あとね、僕ジャッジを結構長いことやってまして。

[AO] はい。お聞きしています。

[OGM] だいたい年間100日以上ジャッジやってたんですよ。試合はプロの試合ばかりですけど。その年間100日以上と言う状況を20年以上続けてるんですよ。そうするとね、ジャッジって、試合の中では脇役じゃないですか、選手が主役なんで。

それで、例えばジャッジがボードを2本とか3本とか持って行っちゃうと、例えばモルディブの試合とかだと飛行機が小さいんで、選手のボードが詰めないことがあるんですね。小っちゃな島でやる試合なんか特に。そうすると、ジャッジがサーフボード2本も持って行くと、そのために選手がボードを詰めなくなったら、本末転倒になっちゃうじゃないですか。やっぱりそんなことは出来ないですよね。

でも、世界中のジャッジって、皆サーフボードを持って行かない訳にはいかないんですよ。ジャッジはサーフィンしなくちゃいけないって言われてるので。選手がどんな難しい波に乗ってるかを、自分で知らなくちゃいけないっていう当たり前の話なんですけど。

[AO] 職務上のタスクの一つになってるわけですね。

[OGM] そうなんです。ただ2本持って行くと怒られるんです(笑)

[AO] さじ加減が難しいですね(笑)

小川昌男氏
(photo by OGM SHAPES)
[OGM] そうです(笑) だからジャッジは自分のボードは試合に1本だけ持って行くんですね。試合によってはでかい波もあるし、小っちゃい波もあるし、それを1本でカバーするためにはこれしかないなと思ってるんです。

[AO] 便利なんですね。1本でいろんな波に対応したいという人にはピッタリのボードですね。

[OGM] そのボードがFat-3なんですよ。だから僕が一番気に入ってますね。

真面目にやらないとつまらない

[AO] きっと、使い勝手が良くて、いろんな方に愛されるボードなんでしょうね。少し話は変わりますが、ジャッジをすごく長くされていて、ヘッドジャッジもされているということなんですけど、小川さんの方で、ジャッジをすることが好きなのか、ジャッジを担当する事で何か良いことがあるのか、そのモチベーションっていうのはどういったところに有るんですか。

[OGM] 実際はスタートしたのは、もともとJPSAって団体あるんですよ。日本プロサーフィン連盟っていう団体で、その団体にもちろん自分も所属してるんですど、ジャッジってだいたい常に不足してるんですよ。そうすると、試合に出なくなるとジャッジやってくれないかっていう話が、連盟の方から来たんですね。ジャッジ引き受けるからには、相手がプロなんで真剣にやらないとやっぱり対応出来ないですよね。いい加減には出来ないのでね。

[AO] そうですよね。

[OGM] お金かかってますのでね、それで真剣にやると、僕ってのめり込むっていうか、真面目にやらないとつまらないんですよ。真面目にやってないと飽きるんですね(笑)

そういうことで、真剣にやってると、ちょっとはまって、いろんなジャッジに関することをやってるうちに、いつの間にか日本ではヘッドジャッジやれって言われたりとか、そんなことしてるうちに、世界にも行けとか言われて、そういう外国の試合廻されたりとか、という感じでしたね。

採点の重みが変わった

[AO] ジャッジと言いますと、JPSAのロングボード部門も、WSLのようにモダンマニューバー中心の採点から、クラシックマニューバー中心の採点に変わったとお聞きしたのですが、この変更について教えていただけますか?

[OGM] 現在、私はJPSAのヘッドジャッジをしているわけではありませんが、JPSAもちゃんとWSLの採点の方向性には、合わせているんですね。日本だけ別の方法で採点をするわけにはいかないので。1年位JPSAはWSLから遅れてますが、きちんと付いて行ってます。2019年からノーズライディングなどのクラシックマニューバー中心に点が付くように変わっています。

ジャッジメントの基準(クライテリア)自体が変わったわけではなく、クラシックよりのマニューバーをしっかり見るようになったという程度の違いと理解しています。パフォーマンス系のマニューバーの点数も、現在全く付かないわけではなく、今でも付くはずです。以前から、採点の重みの違いは、年によって変化は有りました。今回も、そのように採点の重みが変わったということになります。

[AO] 今回のロングボード部門のクライテリア変更は、採点の重みが変わったという位置づけなんですね。

小川昌男氏
(photo by OGM SHAPES)

ここはハワイだぞ

[AO] ジャッジをされていて、何か印象的だったことはありますか。

[OGM] これはね、ハワイの試合なんですけど、トリプルクラウンっていうWCTの世界中を廻っているサーキットツアーの内のハワイレッグの事なんですけど。ハレイワの試合と、パイプラインマスターズと、サンセットの試合。WCTの年間ツアーの内この3つの試合だけを、ハワイレッグ、トリプルクラウンと言って重要視されているんですね。

それで、このハワイレッグ3試合の合計のポイントで優勝すると、トリプルクラウンっていう一つのシリーズのチャンピオンになれるんですね。年間ツアー優勝とは別にチャンピオンタイトルが得られるんです。

そのトリプルクラウンの試合の1個、ハレイワでの試合をやってた時の話なんです。外国の選手がジャッジルームに文句言いに来るわけですよ。それがね、カッコ良くて…。テイラー・ノックス (Taylor Knox) っていう選手がその時ね、彼がハレイワの12フィート位のでかい波をね、ボトムダウンして、深く鋭くターンしたマニューバーに対してね、1アクション(ボトムターン & トップターン)ではあったんだけど…。これ話あんまり面白くないかな、でも…。

[AO] いえいえ、面白いです!!

鋭いオフザリップとカービングを決めるテイラー・ノックス
(movie by Reef)
[OGM] 7点くらい出したんですよ、ジャッジが。ジャッジは5人いて、僕もそのジャッジの1人だったんです。確か、10点満点でアベレージが7点台だったんですね。ジャッジが1個のアクションに7点入れるってそうは無くて、僕は、結構良いスコアだと思ってたんです。

その後、その対戦相手であるダミアン・ホブグット (Damien Hobgood) っていう選手が3回位、テイラー・ノックスの時よりもサイズが小さい波に対して、パチンパチンパチンって、なかなか奇麗な3つの連続ターンをしたんですよ。それに対して、テイラー・ノックスの1個の鋭いアクションの時と同じような7点台のスコアをジャッジが出したんですね。

そしたら、このテイラー・ノックスっていう選手がいきなり怒って、試合終わった後に、ジャッジルームに来たんです。僕はヘッドジャッジじゃなかったんですけど、普通のスコアジャッジで5人のうちの1人で、その上にヘッドジャッジってのがいるんですよ。みんなのジャッジングのスコアを監視してる人なんですけど。そのヘッドジャッジにテイラー・ノックスが彼の鋭い1アクションに対する点数が低すぎると文句を言って来たんですね。

それで、ヘッドジャッジが、「1個のアクションに7点もやったじゃないか。」みたいに説明をしたんです。テイラー・ノックスっていうのは、僕の尊敬する凄い良いサーファーなんですけど。

[AO] 有名ですよね。  

[OGM] 有名なサーファーですけど、そのヘッドジャッジの説明に対して、「ここはハワイだぞ。」って言ったんですよ。ここはハワイで、大きい波での厳しいマニューバーが、いかに難しく価値があるかということを言いたかったんですね。大きな波での難易度の高いマニューバーにより高い得点を付けなくてどうするんだっていう、言い分だったんですね。

要するに1個の凄いアクションにね、相手が3回ターンをやったのと同じような点を付けたと。普通だったら3回のマニューバにより高い点付きそうですよね。でも、それでも自分がした1つのアクションの方に絶対に高い得点を付けるべきだという言い方が、「うわっ、なんかカッコ良いな」と思ったんですね。

小川昌男氏
(photo by OGM SHAPES)
[OGM] テイラー・ノックスって選手会長だったんですよ、その時の。そしたら、その次の日にね、ケリー・スレーターがやっぱり自分のヒートで1回凄いターンをしたんですよ。それに対してね、アベレージが9.7位のスコアを出したんです。とにかく凄いマニューバーだったんで。

そしたらテイラー・ノックスがまたドンドンドンって上がってきて、また怒りに来たのかなって思ったら「Thank you」って言って帰っていった(笑)

[AO] そうなんですか(笑) 今回は満足したと。

[OGM] だからその、1個のターンにアベレージで9.7ポイントも付いたと。ジャッジの中には10点を付けた人もいたんだけど、アベレージが9.7ってもう本当に最高レベルの得点で、1個のターンに対してそういう高いスコアを付けたってことでね、「ありがとう」って言って帰って行ったんですよ。やっぱりね、なんか凄いなと、やっぱりカッコ良いなと思ったね。あんまり面白くなかったね(笑)

驚天動地超絶マニューバー、ケリー以外見たことが無い

[AO] いやいやいや、とっても面白いお話です!テイラー・ノックスがやった鋭いターンとは、マニューバーで言うと何だったんですか?

[OGM] ボトムターンとトップターンだったんです。

[AO] そうなんですか。ケリー・スレーターがやった、凄いマニューバーは何だったんですか?

[OGM] フェースの360ですね。どこが凄かったかと言うと…、最後の360で波のトップにあたって板を返した時には、もう空中に飛び出すっていうんじゃなくて、落ちるような…、波が掘れ過ぎてるんで、もうフリーフォールみたいな感じで、空中を落ちてるような恰好なんですよ。波のトップから波が崩れ落ちるところで回っちゃうわけだから、フェースで奇麗に回っているというよりは、最後はフリーフォールみたいな格好で回っちゃってるんですよね。ボトムからトップまでは壁を走ってるんですよ。それで180度回ってるじゃないですか、波の上まで行って。そこから、残りの180度は波のトップから、波のリップと一緒に落ちてくる感じなんですよ。
エアリアルからフェースの360を決めるケリー・スレーター
(movie by Prey Sne)

[AO] 仮に単純に例えて言えば、直角の壁に向かって360をするようなイメージ、ということですよね?

[OGM] そうです。それも、もう、とてつもない波でやってるわけですよ。本来360って技は、ホットドッグな技なんで、基本的には大きな波ではやらない技なんですよ。というか、出来ない技なんですよ。頭位の波でやる技なんです。それがもう8 feet以上の波でそれをやってる訳だから…。

[AO] もう、超人的ですよね。ケリー・スレーター以外に、この時の360と同じような技を決められる人はいるのでしょうか?

[OGM] 僕は、少なくともその時初めてみましたし、ケリー・スレーター以外に試合では見たことが無いですね。ハワイの波って、もう、そういう技をやる場所じゃないんで。要するに、テイラー・ノックスはボトムターンとトップターンだけで、7点以上出てる訳だし。普通の波だったら、ボトムターンとトップターンで2.5位しか出ないですよ。
小川昌男氏
(photo by OGM SHAPES)

ハワイじゃなかなかそんなことやらないぞ

[AO] ハワイは、基本的なマニューバーをするにもそれだけ厳しくなる、凄い波の環境ということですよね?

[OGM] そうですね。その環境でやったから凄いんですよね。ケリーの360はその環境でやったから…、普通だったらもう少しスコア低いのに、この点数をケリーに対して出してくれたということで、テイラー・ノックスも「ありがとう」って言いに来たわけで。

[AO] それはやっぱり、テイラーのボトムターン、トップターンにしても、ケリーの360にしても、そのとてつもない波で決めた技が本当に厳しくて、難しくて、凄い価値があるんだぞ、と心から思ったんでしょうね。

[OGM] 本当に厳しいとこでやってるんですよ。やっぱりだからハワイじゃなかなかそんなことやらないぞっていう。

[AO] なかなか出来ないことだったので、それをちゃんとジャッジしてくれなかったっていう気持ちが、テイラーにあの行動を起こさせたんでしょうね。

[OGM] その前の日にテイラー・ノックスが怒って良かったって、本人は思ってるんじゃないですか(笑) 

[AO]本当に最高峰のレベルでしのぎを削るようなお話ですね。本当に貴重なお話ありがとうございます。

小川昌男氏
(photo by OGM SHAPES)

稲村ケ崎は凄くクオリティの高い波が立つ

[AO] プライベートやテストなどでサーフィンされることが有ると思うんですが、小川さんの普段のサーフィンのスタイルを教えて下さい。

[OGM] 基本的に僕はサーフィンとシェイプしかしてないので、それだけです(笑)

[AO] 普段は海はどのあたりに入られてるんですか?

[OGM] 基本的には稲村ケ崎が中心です。

[AO] やはり、湘南の辺りだと、波が立つときは一番大きな波が立つんですかね?

[OGM] 波が立つ頻度はかなり少ないですが、リーフなのでね。でも、立った時には凄くクオリティの高い波が立つんですよ。

[AO] 台風の時とかにも入られたりするんですか。

[OGM] そうですね、台風の時にはかなり良い波が立つので。         

[AO] 逗子の沖合のポイントは…。

[OGM] カブ根とか大崎とかですね。あのポイントにもローカルの人がいると思うんですけど、僕は稲村ですね。カブ根とか大崎でもやったことはもちろんありますけども。

[AO] 稲村ケ崎でサーフィンをされるのが殆どなんですね。

[OGM] カブ根・大崎と、稲村ケ崎は、波が立つのは同じ日ですのでね。やっぱり台風が来ないと立たないので。

[AO] 他の場所、七里とか鵠沼とかではやらないんですか?

[OGM] やりますよ。自分の家は一番七里ガ浜が近いんで。昨日も一昨日も七里ガ浜でサーフィンやりましたし。近くなんでね。でも、僕はやっぱり稲村の方が好きですけどね。

[AO] 波が立ったときの稲村って事ですね。最近でも乗られるのはショートボードばかりですか。

[OGM] 昨日と一昨日とか、この一週間、波が小さいので、あれに乗ってます。8 feet位のスポンジボード。乗る板が無いんで、あんまり長い板持ってないんで(笑)

[AO] なるほど。小波様にソフトボードに乗ってるんですね。

[OGM] そうですそうです。後、うちの奥さんの板借りたりとか。長いのも持ってるんで。僕の板は短いのでね。

[AO] 奥さんはロングボードされるんですか?

[OGM] ロングボードっていうより、ミッドレングスですね。

[AO] 奥さんと一緒にサーフィンされたりするんですか?

[OGM]奥さんは基本的にはやらないですね。板は持ってるけども、もう今は殆どやらないですね。
小川昌男氏
(photo by OGM SHAPES)

自分が本当に小さな存在と思わされる

[AO] あと、何かこんなこと思ったよとか、海や自然に対して感じた事とか、何か有ればお聞かせいただけますか?

[OGM] 僕、サーフィンやってるとね、海の中で、やっぱり自分の思い通りにならないことばっかりですよね。大体、波も自分の思ったところには来てくれないし。だからなんかね、波の間で浮かんでるときに、凄く自分が本当に小っちゃな存在なんだなって、なんか思わされるんですよ。気づかされるんです。

[AO] 興味深いですね。

[OGM] 悪い意味じゃないんですよ。自分が生きてて、なんか本当に、何一つ自分の思い通りにならないじゃないですか。波とか、自然のことって。そうやって思ったときにね、なんか、人間は結構好き勝手に生きてるなって気がするんですよ、そうやって思ったときに。ちょっと話がずれちゃうかもしれないんですが。

[AO] いえいえ、そんなことないと思います。大切なことだと思います。

[OGM] なんか、本当にデタラメやってるなって気がして。そうするとね、何かそこで思うのが、何かもっと僕たちはね、自然とか他の生き物に対して敬意を払って、もっと謙虚に生きるべきじゃないかなって思うんですよ。サーフィンやってて海にいると、大体思いますね。

[AO] 大切なことだと思いますね。自然に向かい合った時に、謙虚な気持ちになるっていうのは、日本では、あらゆる自然に神性が宿るというふうな考え方が昔からあると思いますけど、そういったことに通じるような、とても大切な感じ方じゃないかなと聞いてて思いました。

[OGM] なんか自然に対して、今話した事と、反対のことをしてるような。なんか地球を壊しちゃってるような気がするんです。

[AO] そうですね。

[OGM] こんなことでいいのかなと。あるいは、例えば海を埋め立てるのも、なんか、人の生活のためとは言いながら、自然の災害を防ぐためだとか言って、堤防を作ったりとかしてるけど、その場所にも、地面や海底に生き物は生きてるわけだし…。もうちょっと、他の生き物に対して優しくって言うか、その言い方だとなんか上から目線なんで、そんなレベルじゃなくて、もっともっと謙虚になるべきだなという風に感じますね。

[AO] そうですよね。環境についてもそうですし、他にもある方も言ってましたけど、やっぱり足るを知るっていうことが大事だと。例えば魚の話にしても、今は温暖化の影響もあって、結構魚が北の方に行っちゃって、日本での漁獲量が落ちてるんじゃないかという説もあるとは思うんですけども、それ以外にもやっぱりその乱獲をしないように、その足るを知るというか、取りすぎないということを考えないといけないんじゃないかと思います。

[OGM] ですよね。
小川昌男氏
(photo by OGM SHAPES)

[AO] 今の言葉で言うとサスティナブルっていう言葉になるのかもしれませんけれども、先ほど聞かせていただいたお話はそういったところに通じるようなお話なのかなって、聞いてて思いました。

[OGM] 本当にそうです、その通りです。それって突き詰めていくと、資本主義がこれで合ってるのかなとか、そこに行きついちゃいますよね、なんか。経済を求めて、環境や、人間が住む地球を壊してしまって、人間が困るということなら、人間は自分で自分をコントロール出来てないということなので、資本主義が駄目なんじゃないか、とすら思います。

[AO] そうですね、おっしゃる通りだと思います。ひたすらに本当にその富とお金をもう際限なく、やっぱり求め続けるっていうのは、ちょっとどうなのかなっていうのは、私も同感ですね。

このままじゃ駄目なんじゃないかって自然が教えてくれる

[OGM] 魚とかも無くなっているのも、いくら獲っても、陸に上げれば冷蔵庫に冷凍して保存しておけるので、水揚げ量が少なくなった時に保存していたものを売れるっていう考えで、当たり前のように際限なく目の前にある魚を取っちゃうということですよね。

昔だったら、いっぱい取れば腐ってしまうし、必要以上に獲るのは違うと思えば、必要以上は獲らないじゃないですか。今の経済の仕組みだと、当然のようにどこまでも獲ってしまうような感覚なので、止める方法というか、ルールが無い状況が有りますよね。これって欠陥なんじゃないかなって思います。

[AO] そういった部分は、やっぱり反省していった方が良いんじゃないかって思いますよね。

[OGM] 今の経済の仕組みで問題のある部分を、止めるための法則なりルールなりを作るべきだと思いますね。僕は理科系の人間なので経済学は専門では無いですが、今の経済システムの基礎になっている経済学ってこんな不完全なので良いのかって、経済やってる人はこれで大丈夫だと思ってるんですかって質問したいですね。経済の専門家の方達は、そういう問題に対する解決策を何か生み出せばいいのにって思いますけど。

[AO] そうですよね。おっしゃる通りです。私も今小川さんから話していただいたことは、非常に共感しますし、そういった問題に気付いたり、問題として認識する人が増えてくれると良いなと思いますね。

[OGM] ですよね、サーフィンをしてる人だと分かってもらえる気がするんですよね。その感覚が。

[AO] そうですね、おっしゃる通りで、やっぱりサーフィンとか、あと私山登りも好きなんですけど。

[OGM] 山登りも同じですよね。自然に関わることに何か足を突っ込んでる人って、やっぱり何か自分がやってる事は、このままじゃ、なんか駄目なんじゃないかって自然が教えてくれるんじゃないですか。何かことあるごとに。

[AO] そういう風に思いますね。

[OGM] 気づくことって沢山あるだろうしね、僕はあんまり山に行ってないけど…。
小川昌男氏
(photo by OGM SHAPES)

[AO] 本当に自然に触れて感じることとかも沢山有ると思うので、まだそういった自然に関わることに触れられてない方には、いろいろ自然に触れて、いろんなことを感じていただけると嬉しいなという風に思っています。

[OGM] ですよね、本当に。

サーフィンで関わってる人がみんな思い浮かんで来る

[AO] あとですね、小川さんにとってサーフィンっていうのはどういったものかお聞かせいただけますか?

[OGM] えぇっと、もうね、僕60年生きてきて、50年サーフィンしてるんですよ。

[AO] 長いですね(驚)

[OGM] だからね、もうなんか、半世紀っていうか自分の人生の80%以上サーフィンしちゃってるなって。だからね、なんか人生そのものだなんて、ありきたりな言葉になっちゃうんだけど。なんかね、僕にとってのサーフィンていうのは、サーフィンっていう言葉とか、波に乗るっていうサーフィンの動作とかではなくて、サーフィンで関わってる人がみんな思い浮かんで来るんですよ。

自分の周りにいる人っていうか、昔から自分にサーフィンを教えてくれた人、自分が一緒にサーフィンしてきた人、サーフィンを教えたやつとか。なんか、そういった人達全員の集合体みたいなイメージなんですね。全部ひっくるめたような感じですよね。

[AO] なるほどなるほど。いろんな人々や、人との関係とか、思い出とか、記憶とかいろんなものが集まって。

[OGM] そう。だから人生なのかな、そんな意味を含めた人生なんだなって思いますね。全てその先には、ありがたかった、やって良かったなって凄く思ってますね。やって良かったなっていうのはちょっと主体的に言い過ぎてるな…。サーフィンと出会えて良かったなっていうか。

[AO] どういったところが良かったと思われますか。

[OGM] やっぱりこの感覚っていうのは、他のことをやってて、ちゃんと得られてるのかなって思った時に、凄くいろんな場面、人生生きてきた全ての面でサーフィンって基本になってるんですよね。

[AO] 人生の学びにもなっているということですか。

[OGM] そうなんです。さっき言ったこと、海の中で自分が小さいもんだなと思うことだとか、なんか全ての感覚のベースがサーフィンなんですよね。

[AO] 何か自分の人格に良い意味で大きな影響を与えていると。

[OGM] 間違いないと思いますね。

[AO] 非常に興味深い、素晴らしいお話ですね。ありがとうございます。

(インタビューはここまで)

著名なサーファーであり、ジャッジ、サーフィン・ウインドサーフィン・SUPとクロスボーダーなシェイプワーク等、幅広い分野で活躍している小川昌男氏。インタビューを終えてみて、ふと「究める」という言葉が胸に浮かんだ。とことんまで、その時その時で関わる分野を追及し、Abyss(海溝)の底の底の真髄まで極め尽くす。それが、小川昌男という偉大なオーシャンマンの本質ではないか。

海に教えられたという謙虚さからか、彼から発せられる言葉は控えめ過ぎる程、謙虚さに満ちている。しかし、それと反して彼が残してきた足跡は広大であり深遠である。大いなる彼の存在の茫洋さは海のそれからもたらされているに違いない。

ジェリー・ロペス、 テイラー・ノックス、ケリー・スレーター、彼ら頂点を極めた巨星達が全力でしのぎを削る世界に、目の前で触れ、肌で感じ、小川氏自身もその極限の世界に迫って来た。OGM SHAPESでの更なるシェイピングの進化、Lightning Boltの復活と、小川氏をめぐる動向がますます楽しみだ。

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